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町工場の職人技を守る、若き4人の獅子たち| バックストリートファクトリー

Update: 2019.02.13|CategoryTOPICS, よみもの

長寿、円満、平穏……と、それぞれ意味をもつ和柄文様を、実に繊細なレーザー加工による透かし彫りで表現した『千代切紙』。メディアにも多く取り上げられ、折り紙ファンを中心に注目を集めています。これを開発したのは、4人の若き経営者で構成される(株)バックストリートファクトリーです。今、扱っているのは文具ですが、今後は他の分野の商品も手掛けていきたいとのこと。今回は中心メンバーである臼井基樹さんと馬場将実さんに、結成のきっかけや今後の展望についてお話を伺いました。ふたりを突き動かすのは、町工場を応援したい、現状を打破したいという人情味あふれる熱意です。

 

 

下請けからの脱却を目指して

お客さんの顔が見える位置に

 

――バックストリートファクトリーを結成したきっかけを教えてください。

 

「メンバーはそれぞれ会社の経営者なのですが、みんな下請け業務に限界を感じていたところだったんです。やっぱり自分たちがメーカーになって、お客さんの顔が見えるモノづくりをしたいっていう思いが常にありましたし、いつ仕事がなくなるかわからないという下請けならではのリスクを軽減したいという気持ちもありました。もともと製本印刷関連組合にに所属しているメンバー同士、飲みの席で情報交換していくなかで、同じ気持ちを抱えているなら自分たちで商品を作ってみようという話になったんです」

 

――実際にどのような商品をつくったんですか?

 

「まずはISOTという国際文具・紙製品展に出展することを目標に、『MENMO(メンモ)』という付箋をつくりました。当時は不景気だといわれているなか、文具とペットのマーケットは伸びていて……とくに付箋は、もともと3Mさんがつくった付箋がシンプルにあったところに、文字を書いてみよう、絵を描いてみよう、ハートの切り抜きにしてみようと、いろいろなアイデアが生まれ始めた時期で、タイミングもよかったと思います」

 

――ご覧になった方の反響はいかがでしたか?

 

「展示会に『お願いランキング』というテレビ番組の取材が入っていて、文具の専門家の方がランキングをつけるというコーナーがあったんです。そこで、『MENMO』が1位をいただいてテレビで紹介されたのですが、始めたばかりで何のメディア対策もしていなくて。お客さんから問い合わせがあっても、どこにも売っていないという状態でした」

 

――そこからどのように広がっていったんですか?

 

「地道に続けて、じわじわ広がっていった感覚です。面白いものを作ってはいるので、文具問屋さんの展示会でも変わったものを探している方に買い付けていただいて、1年間で400~500社の店頭に並びました。定期的に新商品を開発しないといけないという気持ちがあるんですけど、自分たちだけのアイデアだと不安なので(笑)、モノづくりのサポート活動をしている大学のサークルと協力することもあります」

 

 

 

“職人リスペクト”のもと、

町工場の技術を守り続けるために

 

――現状は順調に進んでいますか?

 

「ご飯が食べられているわけじゃないけど、みんなそれぞれ別事業をやっているので、そこと合わせれば回っているというのが現実ですね。バックストリートファクトリー単体で人を雇えるわけではないですし、基本的にはマイナスにならないように運営をしています」

 

――それでも続けていきたいと思う理由は、自分たちで発信したいという気持ちが強いからですか?

 

「それもありますし、そもそもバックストリートファクトリーのコンセプトが、下町の町工場を活用して守っていくということなんです。僕たちは30、40代ですが、この世代の経営者はすごく少ないんですよ。日本企業のほとんどを占める中小企業のモノづくりが戦後の日本の発展を支えていたのに、事業経営が継承されず、いまでは経営者の平均年齢は60代です。日本の町工場のモノづくりに素晴らしい技術があっても、このままだとそれが途絶えてしまいます」

――どのような状態が理想ですか?

 

「職人が飯をちゃんと食える時代。僕たちみたいに口で伝えられる人ばかりじゃなくて、話すのは苦手だけど、集中してモノを作ったら本当にいいモノを作る人たちがいるんですよ。でも、そういう人が働く場所がどんどん少なくなっているんです。昔は1000人が働いていた工場が、ロボットや機械が入ってくることで5人だけで回せるようになる。手に職をもった人たちが満足に働ける場所がなくて、どんどん無気力になってしまう。営業が得意な人にとってはいい時代かもしれないけど、逆の世界で黙々と力をつけてきた職人や職工が報われない時代になってきた気がします」

 

 

――きちんと培われた技術をもった職人さんが、実力を発揮できる場所づくりということですよね。

 

「僕たちは、口はうまくなくても寡黙に技術を磨いてきた人たちを尊敬しているので。別事業でジュエリーを製造しているのですが、それも60歳の職人さんと進めています。基本的な考えが“職人リスペクト”なんです。職人がいなくなると、結果的に日本のモノづくりはどんどん面白くなくなって停滞していくと思います。そうならないためにも、町工場の人を応援できることがやりたいんです」

 

――客観的に見ると、日本のモノづくりは盛り上がっているようにも感じていたのですが。

 

「メディアがフォーカスして、一部で盛り上がっているところはあると思います。でも見た目の華やかさとは違って、モノづくりは見えない地味な部分こそしっかりやる必要があって。昨日今日できあがったわけではなく、何十年もノウハウを積み上げてきた力があるからこそ、いいモノができあがるという側面もあります。お客さんからしたら、ただの綺麗なものかもしれないけど、僕たちにしたら血と汗と涙の結晶なんですよね。いいモノを作りたいっていう理由で喧嘩しながらつくって、納得いくものができてやっと初めて世に出せる。だから、一過性のものとも違うと思います」

 

周囲に応援してもらったように

いつか応援していく立場に

 

――今回、東東京モノヅクリ商店街には何を出展されるんですか?

 

「千代切紙という商品のパッケージをリニューアルして出そうと思っています。最初は何も考えてなくて、僕たちの悩みを相談したら、ブランディングがうまくいってないんじゃないかという話になったんです。それまでパッケージデザインにこだわったことがなかったので、一度任せてみようと思いました。文具店だけではなくて、セレクトショップにも置かれるクオリティにして、販路を広げるというアドバイスを受けて、今までやったことないことだし試してみようと」

 

――実際にできあがったデザインを見たときはどう思いましたか?

 

「最初は正直頭に?が浮かんだんですよ。修正も加えながら最終的に仕上がったものが意外とシンプルで、こんなにシンプルでいいのかな?って思ったんです。でも、展示会に持っていくと“シンプルでいい”という声を多くいただいて……お客さんの反応を聞いて、自分たちの価値にないものが生まれる楽しさを知った感じです。新商品をつくれたら、という想いもありましたが、今となっては再ブランディングはいい方法だったなと思っています」

 

――どのような方が購入されていますか?

 

「基本的には折り紙が好きな人ですね。決して安いわけではないのですが、折り紙が好きな中高年の方は『探してたの!』と喜んでくれて、ひとりで5000円分くらい買っていかれる方もいます。あとはレジン作家の方ですね。紫外線で硬化するレジンという樹脂があるんですけど、それを千代切紙に垂らしてピアスやブローチを作って手芸マーケットで販売するんです。今、手芸マーケットの市場規模は約1兆円ともいわれています」

 

――紙だからこそ、想像を膨らませれば幅広い可能性を感じますね。今後の夢や目標を教えてください。

 

「町工場やモノづくりで上場する会社がほとんどないんです。そんな中で、俺らは上場を目指そうぜって言ってるんですよ。嘘でしょ? って感じだと思いますけど(笑)。長くやっているとそれなりにノウハウもたまっていくので、そういう意味では町工場を応援してもらったように、応援できる会社になっていくっていうことはひとつの目標なんです。町工場って、なかなか“助けて”って言わないんですよ。たくさんの商品を持っているところも少なくて、ひとつ完成したから世に出したいけど、結局出しそびれちゃう。そういうものを集めるだけでショップになるんじゃないかなって思うくらいです。形はいろいろあると思いますが、自社商品の充実はもちろん、販売力のない工場の商品を、うちを通して世に広めていくお手伝いができたらいいなと思っています」

 

 

Photo_MURAKEN

INFORMATION

株式会社バックストリートファクトリー

〒116-0012

東京都荒川区東尾久2-25-8

TEL 03-6458-2980

URL :http://backstreet-factory.com