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ファッションを愛する人に新しいニットの世界を提供する|丸安毛糸

Update: 2021.12.31|CategoryTOPICS, よみもの

両国駅を出て1~2分ほど歩いた場所に、丸安毛糸のビルが見えてくる。近代的な5階建てのビル。入口には毛糸とかぎ針の巨大なオブジェが置かれ、1階の「アンティークカフェ ウール倶楽部」からは芳醇なコーヒーの香りが漂ってくる。
「昔から糸屋さんがひしめく土地でしてね。このカフェは、愛好家の方々がゆったり編み物を楽しんだり、交流を深めるために設けたんです」
案内してくれたのは、社長の岡崎博之さん。老舗セーター・ニット専門会社の三代目として、リーダーシップを発揮している。

丸安毛糸は、岡崎社長の祖父と父が1955年に創業した。毛糸といえば、手袋や腹巻きなどの防寒素材として認識されていた時代だが、今後はファッション用途の需要が高まってくるものと予測。ファンシーヤーンと呼ばれるファッション性の高い糸の開発に特化して他社との差別化を図り、その予測は見事的中する。
「特に80年代に起こったDCブームでは、変わった糸を求める有数ブランドから次々と声がかかり、会社も急成長したのです」
各ブランドのモノヅクリに携わるようになったその頃より、アパレル製品の開発・製造の領域まで業務を拡大した。完成されたアパレル製品は独自に開発した糸の使用例としても役立てられ、理想的なシナジー効果を発揮。現在は素材と製品の両輪で事業を成長させている。

たかが毛糸、されど毛糸。素人にはピンとこないその奥深さについて、岡崎社長は料理に例えて教えてくれた。
「どんな料理も材料や下ごしらえが大切です。その材料も、品種や産地、収穫された時期などさまざまな要因が違ってくる。僕たちが携わる糸も同じです。羊毛だけでもグレードや産地、太さ、状態など複数の判断材料がありますし、さらにアクリルやレーヨン、コットといった混紡させる原料の種類や太さ、割合なども掛け合わせると、まさに無限。これらを駆使して、どのような製品を生み出せるのか? その腕前にすべてが掛かっている、レストランのシェフと同じような世界なのです」
たとえば丸安毛糸の素材ブランド「モンテルーチェ」で人気の「バルーンウール」は、染色工程で膨らむ「バルキーアクリル」をウールと混紡することで、フワッとしてボリューミーな質感を実現できたという。
「ニットをここまで突き詰めている企業は、そう多くはありません。この開発力こそが、当社の強みなのです」

岡崎社長は大手商社を経て90年に丸安毛糸に入社し、2003年に社長に就任した。
「僕は性格的に新しいことが好きなので、いろいろチャレンジしてきました」
2009年には、外部アパレルデザイナーなどの関係者に社内資料やサンプルを公開し、新しいアイデアや知識を生み出す場となる「ニットラボ」を開設。ニット業界の底上げを図るとともに、丸安毛糸の存在感を高めた。2011年からは、自主開催の展示会を年2回のペースでスタート。糸をはじめ、編み上がりがイメージできる編み地も展示し、受注数の拡大や新規顧客の開拓を図った。他にもオウンドメディア「ニットマガジン」の運営や編み物教室の主催など、積極的に情報発信を行っている。
「新しいことへの挑戦は、創業当時からの当社のDNA。私たちが求められていることを、少しずつ広げていったんです」

2012年には、蓄積されたノウハウや企画力をもとにオリジナルファクトリーブランド「プントドーロ」を新設。原料の素材感まで細かく吟味してくれる場だと、いきなりフランス・パリの展示会へ持ち込んで華々しいデビューを果たした。
「ヨーロッパのバイヤーたちから、高い評価を得ることができました。この成功をもって日本でもうまく展開していきたかったのですが、ブランドビジネスに不慣れな部分が大きく、近年はコロナ禍もあって少し停滞してしまっていたんです」
そこで東東京モノヅクリ商店街への参画を期に、ブランドのリスタートを決意。ピーアール方法の再検討やセールスエージェントとの契約、プレス業務の拡充などを検討している。
「プントドーロは、イタリア語で『金の編目』という意味。ひと目ひと目を大切に編んで、日本のニットの素晴らしさを伝えていきたいのです」

「プントドーロ」の商品単価は安くて1万円台からで、10万円超の高額なアウターもある。素材として販売している糸も、業界基準としては高価格帯とされるものが多いという。
「『丸安毛糸さんは高いですよね』っていわれることもありますけども、他には絶対に負けていないという自負があるし、その価値を認めてもらえる企業と一緒によい製品を作っていきたいんです。衣服に『実用性』と『ファッション』としての目的があるとすれば、当社は後者に特化しています。業界全体は厳しい状況が続いていますが、世の中からファッション好きがなくならない限り、僕たちの役割はなくならないと信じています」

INFORMATION

丸安毛糸株式会社

〒130-0026 東京都墨田区両国3丁目21−5
TEL:03-3633-5561