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栃木レザーの貴重な多脂革で価値ある製品を生み出す|和宏 / minca

Update: 2024.01.17|CategoryTOPICS, よみもの

北千住駅から徒歩8分。和宏のオフィスは、南北に伸びる日光街道から路地を入ってすぐのところにある。アンティークな雰囲気の木製扉を抜けた先にはレザークラフトグッズが陳列され、さらにカウンターの奥には作業スペースが広がっていた。
「ここでは自社ブランドであるmincaの商品を販売しています」と、代表取締役の山﨑高裕さんが案内してくれた。「モノの良し悪しに関心の高い、中高年の方に支持していただいています。女性のお客様のほうが多いですかね。基本的にすべてタンニンなめしで、経年変化によって深まっていく革の味わいをお楽しみいただけるんです」

前身となる山﨑商店は1965年に創業し、1971年に和宏として法人化。靴を除く革製品の製造を事業とし、主に警察用品を取り扱ってきたという。
「白バイ隊員が冬季に着用する革の防寒着や、拳銃や手錠を吊るす腰回り品です。革の防寒着はなくなってしまいましたが、腰回り品は現在も警視庁に納入しています。無線機が小型化するなど10年に1度は刷新されますし、消耗品でもあるため適宜注文をいただけるため売上規模は大きく、当社の売上の約4割を占めています」
和宏が警視庁からの要望に応えられているのは条件に適うスペックを適正価格で実現しているからであり、特に革素材の品質が重要なのだという。
「要は強度ですね。重いものを吊るすわけですから。検査機関によってJIS規格をクリアし、出荷証明を取得したメーカーしか材料を出せないんです。当社は国内のタンナーである栃木レザー社の革を使い、警視庁からの要望に応えています」

栃木レザー社は、昔ながらのなめし工程を堅守する製革業者だ。化学薬品を使って短時間でなめすクロム仕上げとは違い、自然由来の薬剤によって時間をかけてなめすタンニン仕上げを採用。強度に優れ、かつ革本来の味わいがあることから、いまや栃木レザーは革製品愛好家の中で知らぬ者はいないブランドにもなっている。
和宏が警察用品に用いているのは、タンニンや脂をさらに増量した多脂革だ。なめしに時間がかかる上、栃木レザー社で生産可能な総数のうち5~8%しか作れない希少な素材だという。さらに拳銃や手錠などがフィットするよう、革絞りと呼ばれる加工を施して立体的に成形。果たして“御上”が認めるプロフェッショナルな革製品が完成した。

応対してくれた山﨑さんは、和宏の二代目に当たる。まったく異なる業界の会社に勤めていたところ、警察用装備品の製造事業のさらなる拡大が見通せたため、当時の代表だった父から経営の承継を切望されたという。そこで1997年に入社し、2005年より代表を継いだ。同じ年、栃木レザー社との関係をさらに強化し、同社が製造する多脂革の全量買取を実現。さらに栃木レザー社の販売代理店となり、他企業への卸販売も担うようになった。
「その他、革の消費を促す目的としてOEM生産も行っています。タンニンレザーの魅力を訴えるような、アメカジやヴィンテージなテイストのブランドが多いですね。白バイのジャケットを縫製していたノウハウも活かされています。また、コンスタントに生産管理していくためにも自社商品を開発する必要性を感じ、2006年からmincaを立ち上げました。現在、革の卸売の事業売上は警察用装備品と同程度の約4割で、残りがOEMとmincaですね」
製造場所はショップ機能を兼備する足立区千住の本社のほか、埼玉県越谷市と新潟県津南町の縫製工場。その他、いくつかの工房にも協力を依頼することがあるという。

事業の成長を目指し、現在注力しているのが自社ブランドmincaのさらなる伸張だと山﨑さんは語る。mincaのビジネスが拡大すれば栃木レザー社から仕入れる革材料を増量でき、卸売事業の底上げにもつながるからだ。
「多脂革をはじめ、こだわりのある革を使っているのがmincaの魅力です。デザイン的にはシンプルなバッグや財布が多いのですが、興味を引いてもらうきっかけを作るためにも、個性を強めた製品を出すべきかと考えています。ただ、そもそも安くない素材ですし、これ以上手間をかければ販売価格が上がってしまうのが問題で……。認知拡大と値付けのバランスをどうやって取っていくかが、現在当社が抱えている課題のひとつです」

課題解決の一助として期待しているのが、東東京モノヅクリ商店街だ。他業界における自社ブランドの成長過程を学び、新たな刺激を受けることで、mincaのさらなる進化を促したいと山﨑さんは考えている。
「関係者と相談を重ねる中で、ギフトショーなど展示会での出品に合わせた新製品開発の重要性を改めて感じました。mincaでも逐次新製品を投入してきましたが、やはりBtoBのお客様を含め多くの方に新製品の情報を知らせることや、知らせるための仕掛けは大切ですね。新製品開発のタームや、リリースから販売していく流れといった計画の弱さがうちの課題で、相談していきたい部分です」

外出が制限されたコロナ禍においては、ジャケットやバッグの売上は落ち込んだ。またキャッシュレス化が進む影響から、財布の売れ行きも鈍っているという。
「ただ、コロナ禍が終息してからは回復基調にありますし、最近は栃木レザー自体の認知は国を超え、中国あたりのメーカーから声がかかることも増えてきました。最近ははワークショップも開催しているのですが、レザークラフトがお好きな人は多いですし、オリジナルの製品を発売する個人作家さんもいるんですよ。革そのものの魅力は、これからも不変だと思っています」

INFORMATION

株式会社和宏 / minca

〒120-0034 東京都足立区千住3-12-1F
TEL: 03-5284-7790
URL : https://www.minca-handmade.com/