必ずと行っていいほど、有名ホテルやレストランに勤務するスタッフの胸元に掲げられているのが名札だ。東和マークは、そうした名札の企画・製造・販売を主事業としている。
創業者である黛英雄氏は、1958年に群馬から集団就職で上京すると、都内のネームプレート会社に就職。そこで技術を習得した後、1969年に東和マークを創業。企業ロゴなどの金属製プレートの販売を行った。
「当初は企画販売だけだったのですけど、自らモノヅクリにも携わりたいという気持ちがあったのでしょうね」
そう創業者の想いを代弁してくれたのは、子息で2代目を継いだ黛文雄さんだ。

「シール印刷という技術が普及してくると、今後はシールが金属プレートに代わっていくと見越し、1978年にシール印刷用の機械を導入したのです」
さらには多彩な業態のクライアントと関わるうち名札のニーズを察知し、プラスチックの加工や印刷を行う機械を導入。シール事業で培われた企画・デザイン力も駆使し、文雄さんが代表取締役社長となった2010年以後はシールと名札が事業の2本柱になった。

利用客にとってはスタッフの名前を確認するに過ぎない名札だが、サービス提供者側にとっては企業の顔となる存在だ。
「名札は、たしかに脇役です。制服に合っていることは当たり前で、普通は目立ちませんから。でも、ゆったりした環境の中でじっくり話したり、相談したりするような業種だと、名札のような細かい部分まで目につくこともあるかもしれない。当社のクライアントは、そうした細部にまでこだわろうという方にお選びいただけているんです」

一定のコストを掛けてでも東和マークに依頼する理由は、製品としてのクオリティと、思い描いていた名札を制作できるという期待感の高さだ。
「ブランディングや制服へのこだわりが強くても、名札にまで具体的なイメージをお持ちの方は意外といらっしゃいません。これまで数多くの名札を生み出してきたノウハウを駆使し、お客様のニーズを聞き出しながらマッチング度を高められるのが当社の強みだと考えています」
形状を一からデザインするオリジナルの制作にも対応。また、プラスチックと金属のどちらの素材にも対応しているのも珍しく、こうしたことがマッチング度を高めている。

一方、用紙の種類も印刷方法も数多く存在するシール事業については、特殊性を持つシールに注力。他社と差別化したいという要望に応えている。
「たとえば当社で開発した、封蝋のような立体感のある印刷技術はかなり個性的で、式典で使われる封筒などに利用されています。他には、特殊な印刷方法でプレミアム感を出した一升瓶用のラベルなどでも、お声がけいただいています」

顧客はインターネットで東和マークのことを知って依頼してくることが多いが、かなりの割合でリピーターになってくれるという。
「お客様の要望に合わせて名札をゼロから作り上げていける企業は、そう多くないと思います。面倒で、やりたがらないですから。当社は基本的にご依頼を断ることはなく、可能な限り希望に適う成果を出すのが企業文化。そうすると、次からもお声掛けいただけるんです。他に依頼しようにも、たぶん手間が多くて断れてしまうでしょうから」
名札は紛失や中途採用によって不定期かつ少数での継続発注が発生しやすく、海外メーカーよりも迅速に対応できることも支持されている点だという。

東東京モノヅクリ商店会に参加したのは、新しいチャレンジを続けていきたいという想いがあったからだという。特にコロナ禍によって主要顧客だった接客業が大打撃を受けたこともあり、これまでほとんど着手できていなかったBtoCの可能性を模索している。
「たとえば、記名された指輪置き。風呂や洗い物で指輪を外す習慣があっても、置くところがないという人は少なくないはず。わかりやすく設置でき、その上記念品にもなるトレーがあってもいいのではないでしょうか」
東東京モノヅクリ商店会のサポートでデザインやブランディングを進め、商品化を検討している。
「BtoBだけでは、当社がどれだけがんばってもお客様の景気に左右されてしまいます。BtoC事業が成長すれば企業としての足腰が強まり、全体としてよりよいサービスを提供できるはず。今後も、さまざまなアイデアを形にしていきたいと考えています」