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オリジナルブランドで砂型鋳物の魅力を伝える|別府鋳工

Update: 2021.12.26|CategoryTOPICS, よみもの

昔ながらの町工場が点在し、下町情緒が漂う東京・墨田区八広。大通りから一歩入った場所に、別府鋳工の東京本社が見えてくる。改築を重ねた建物内には事務所や研磨機械、大量の在庫スペースなどが置かれ、年季の入った道具からは積み重ねてきた歳月を感じさせた。
「この東京本社は営業や経理機能が集中していて、主な製造は栃木県佐野市にある工場で行っているんですよ」
出迎えてくれたのは、営業担当の別府英彦さん。二代目を引き継いだ別府功雄現代表取締役の息子さんだ。

戦後まもなく、台東区蔵前にて別府真澄、薫、悟の3兄弟で創業したのが原点。その後墨田区に移転し、薫氏は鋳造業、悟氏はプレス業をそれぞれ立ち上げて独立し、真澄氏が1958年に別府鋳工を法人化した。
創業当初は鉄やアルミ、真鍮を使った馬具金具をアメリカ向けに製造・輸出していたが、70年代から中国・韓国製の安価な製品が押し寄せるようになり、袋物金具やベルトのバックルなど国内向け製品の開発に転換した。
「当社の強みは、国内顧客の要望にすぐに応えられる体制を敷いていること。現在は問屋さんが在庫を抱えられない状況ですので、当社のほうで製品のラインナップを増やして在庫を積み、要望があれば1点からでもすぐに納品できます。また、開発力も重要です。新しい製品を作っては『こういうのはどうですか?』と積極的に提案するようにしています。待っているだけでは、仕事は入ってきませんからね」

小ロットからの対応や、オリジナル製品の開発。これを可能にしているのが、佐野工場の存在だ。
同工場では、昔ながらの砂型鋳造製法を実施している。木枠の中に砂を埋め込んで砂型を作り、そこに熱して溶かした金属を流し込んで成型する製法だ。すべての工程に人の手が必要で、別府鋳工に在籍するベテラン職人たちの腕前が物を言う。
「100%手仕事で手間がかかるため、1職人あたり1日に木枠100個分が限度。機械製造と比べると寸法精度には限りがあるし、鋳肌が荒れることや大量生産には向かないといったデメリットもありますが、高価な金型が不要なので小ロットの依頼に対応できるんです。近年は多品種小ロットの依頼が増えていますので、砂型鋳造製法のメリットはかなり大きいのです」

また、思いついたアイデアをすぐ形にできるのも利点だ。たとえば、ナスカンの一部には内側に押し込めるバーを反発させるため、外に穴を開けハトメを入れてバネを搭載させるものがある。しかし別府鋳工は、ハトメを入れずにバネを内部に搭載させることに成功。これまで以上に見栄えのよいナスカンを誕生させた。2010年には特許を取得している。
ダイカストマシンは1980年代に導入しており、当初は東京で鋳造しておりましたが、その後東京に修行に来ていた職人さん(社外)に製造をお願いするようになりました。2011年増産の為、佐野工場にダイカストマシンを導入したという経緯になります。

別府英彦さんが入社したのは2014年のこと。まったく別の業界で経理や管理系の仕事をしていたが、モノヅクリに携わりたいという想いが高まり、入社を決意。しばらく佐野工場で鋳造に携わった後に東京本社へ移り、現在は営業活動に勤しむとともにオリジナルブランド「鋳向屋(いなたや)」の開発を先導する。
「海外勢の影響やカバン業界の変化から、近頃は袋物業でまとまった仕事が減少しつつあります。将来の事業継続性を考慮しますと、袋物金具にこだわらず、直接お客様に届けられるようなオリジナル製品・ブランドを作るべきだと考え、2019年に始動しました。砂型鋳造なら、自由にカタチにできますから」

まずは中小企業振興公社から紹介してもらったデザイナーの協力を得て、ロールペーパーやペンスタンド、ケーブルホルダーなど雑貨を製造・販売した。砂型鋳物だからこそ生じる独自のテクスチャーを活かしたもので、日本の優れた“おもてなし心”あふれる商品・サービスに与えられる「2020年度おもてなしセレクション」を受賞した。その後もアイテム数を増やし、百貨店のポップアップショップや通販など販売網を広げている。
「消費者の声を直接耳にできるのははじめてのことで、とても刺激になっています。また製品づくりにあたり、革メーカーさんなど他の業者さんとご一緒できるのも新鮮なんです」

東東京モノヅクリ商店街に参画したのも、このオリジナルブランドを強化する目的からだ。
連結用フックを繋げることによって自由にカスタマイズできる「繋げる小物ハンガー」を題材にパッケージングやピーアールの方法を磨き直し、これまで届かなかった消費者にも訴求していきたいと考えている。
「オリジナルブランドの課題はまだまだ山積みです。何年後になるかはわからないですけど、ゆくゆくは事業の柱のひとつとして成長できるといいなと思っています」

INFORMATION

別府鋳工株式会社

〒131-0041 東京都墨田区八広3-3-8

TEL:03-3619-0333

URL: https://inataya-imono.com/